第5章 執事side
妃とのディナーが始まる直前、俺は先に席についていたミナト王子の耳元で囁いた。
「下町のお気に入りの女性、可愛いらしい女の子を産んだそうですね。おめでとうございます」
「なっ」
ミナト王子が口を開こうとした時、木の軋む音がしてドアが開き、妃が姿を見せる。
「父親はどなたでしょうね」
俺は片方の唇の端を上げると、さらに声を潜めて囁く。
何も言い返せないミナト王子は憎悪をこめた眼で俺を睨んでいるが、その視線を無視して、俺は笑みを湛えたまま妃の椅子を引いた。
ミナト王子には国王の決めた婚約者がいる。
下町の娘に子を産ませたなどとわかったら、国王のお叱りは火を見るよりも明らかだ。
ミナト王子は国王のことを何よりも恐れている。
もう彼女に手を出すことはないだろう。