第5章 執事side
国王から姫のことを頼まれた時、正直面倒だな、と思った。
彼女の泣き顔を見た時も表向きは優しい言葉をかけながら、内心女はすぐに泣くから嫌だ、と考えていた。
それが、いつからだろう。
無視されても毎日笑顔で挨拶を繰り返し、人に笑われても唇を噛んでこらえる。俺が教えることはすべて吸収しようとする真剣な栗色の目。
俺の色に染めたい……。
俺だけのもの出来れば……。
この頃そんな気持ちが沸いては消えていく。
俺の仕事は彼女を立派な、王族にふさわしい姫にすること、ただそれだけなのに。
彼女に出会ってから自分がおかしいことは感じていた。
今まで周囲の者から「リオンは何を考えているのかわからない」と言われることが多かった。
自分すら、俺には感情がないんじゃないかと思うことがあった。そうなった理由は大体察しがつくが……俺はそんな自分が嫌いではなかった。
大切なものが何もなければ、大切なものを失うこともない。
そう、思っていたのに。
俺の入れる紅茶を楽しみにして、ダンスのレッスンに励んでいるであろう彼女の部屋の扉を開くが、何の気配もない。
机に置かれた歪んだ文字の置き手紙が目に入った。
読み書きも出来なかった彼女だが、俺が一から教えた甲斐があって美しい文字を書けるようになった。こんなひどい文字になるとは、そうとう急いで書いたのだろう。
『ミナト王子の部屋に行ってきます』
あの王子が彼女に何の用だ……嫌な予感がする。