第4章 突き刺さる悪意
コンコンッ
絶望に瞼を閉じた私の耳に届いたのはノックの音だった。
王子たちにも聞こえたのだろう。
二人はじっと動かず息を殺している。このまま無視してやり過ごそうと思っているのかもしれない。
何とかして声を出さなくちゃ。
音を、立てなくちゃ。
強い思いとは裏腹に、強く押さえつけられた身体は少しも動かず、喉からは風すらも出なかった。
やっぱりダメなの……?
諦めかけた時、聞きなれた低い声が耳を掠める。どんな時も落ち着いているリオンの声。
「ミナト王子、おられませんか?
お妃様がお呼びです。急ぎのご用事のようでしたが……困ったな」
二人の王子は顔を見合せる。
「母上か……行かないとまずいな……」呟いたミナト王子の腕の力が緩む。
「白けた。いくぞ」身体が軽くなって、マナト王子が足首の手を解いた。
二人は何事もなかったかのようにドアを開け、リオンを一瞥した後背中を向ける。
後には服を乱され、動けないままで放心している私だけが残る……。
リオンは規則正しい足音で部屋に入ってくると、無表情のまま私の服を正した。
宝石のように美しい彼の瞳に、今の私の姿はどう映っているのだろう。服は破れ手首には赤いあざが残り、口には汚れた布を詰め込まれている私。
助かった。
その思いとは裏腹に彼にこんな姿を見られたくない気持ちが膨らむ。
一言も喋らずに私を抱き上げた彼のことを直視できずに、私もまた無言で部屋まで運ばれていった。