第2章 story2“気付いた想いの名は”
彩芽が上田城に来てから二度目の春を迎えた。
「彩芽殿っ!」
「幸村」
「此処にいたんですか」
「うん、もうすぐ終わるから待って」
パンッと手に持っている手拭いを広げ、丁寧に干していく。
上田に来てから今日まで彩芽は洗濯や掃除などの雑務をこなしていた。
無論、初めの内は女中達も止めたが、置いてもらっているのだからと彩芽は止めるのを聞かず女中達も次第に止めることを諦め、笑って見守るようになった。
二年も経てばその手つきも手馴れたものだ。
幸村は赤くなっていた彩芽の手を見て少し眉をしかめた。
「春と言えどまだ此処は冷えます…あまり無理をしないで…」
そう言うと彩芽の手をきゅっと握った。
「ありがとう、幸村」
にこっと笑う彩芽に幸村の胸は熱くなる。
「天気の良い内に干してしまいたいの、先に戻ってる?」
幸村の手をそっと離した彩芽はまた洗濯物へと手を伸ばした。
幸村は離れた手に少し寂しさを感じたものの、彩芽の邪魔はしまいと近くの石に腰かけた。
「此処で待っていますね」
「うん、わかった」
二年前に比べ、彩芽はよく笑う様になった。
幸村に対しても随分と砕けた話し方をするようになった。
幸村はそれが嬉しくて堪らなかった。
出会ったあの日から幸村にとって彩芽は特別な存在だった。
泣いていた彼女を守りたい。
初めはそれだけだったかもしれないが、今は違う。
“自分の手で”彼女を守りたい。
笑顔にしたい。
幸せにしたい。
その感情が歳を重ねる毎に“愛しい”と言うものに変わって来たことに幸村は気付いていた。
「お待たせ幸村っ……幸村?」
籠を抱えた彩芽は物思いに耽っていた幸村の顔を覗き込む。
「うわぁぁぁっ!////」
「きゃっ……!」
「彩芽…っ?あ、洗濯……」
(近い!近い!!近い!!!///)
「うん…全部干し終わったよ、驚いた…」
「ご、御免……//」
ふぅっと息を吐いて落ち着いた幸村は立ち上がり彩芽に笑顔を向けた。
「さぁ、戻りましょう」
「うん」
彩芽もまた幸村に笑顔を返した。