第17章 story16“家族”
桜の蕾がだいぶ大きくなってきた。
触れた瞬間に弾けて花が開くのではないかと思うほど膨らんでいた。
「すっかり春だなぁ…」
三成と彩芽が話したあの日からひと月以上経った。
秀吉の決断により、小田原へ向かう日取りか決まった。
忍城へと向かう三成や幸村達よりも先に秀吉や官兵衛、そして清正も立つ事になった。
出発は明日。
「また鍛練してるのかな…」
最近まともに清正と話していない事を彩芽も気にはしていた。
「きゃっ…!!」
「…っ!あ、おい…っ」
そんな事を考えて廊下を歩いているとその当人にぶつかってしまった。
「き、清正…?」
「大丈夫か…?ぼーっとして歩いてんなよ」
倒れそうになった彩芽を抱き止める形で清正が助けた。
「うん…ごめん、丁度清正の事を考えてたから…それにも驚いちゃった…」
「俺の事?」
「…最近顔も見ない日が続いてたから…追い込んだ鍛練してるって話も聞いていたし、少し心配で」
「…心配?なんで?」
「なんでって…」
清正がじりじりと彩芽との間を詰める。
「きっ清正…?」
「教えろよ、お前はどうして俺を心配する…?」
清正の手が彩芽の手を握る。
熱い手に、彩芽は小さく肩を震わせた。
「あ……」
清正の手には鍛練で出来た豆があった。
見慣れない彩芽にはとても痛々しく見えた。
(たくさん、鍛練したんだ…)
清正の手を見つめながらきゅっと握り返す。
「彩芽…?」
「心配、するよ…だって…清正は、私の」
顔を赤らめながら言葉を繋ぐ彩芽に思わず唾を飲み込んでしまう。
目が合う。
「清正は私の家族だもん!!!」
「………………ふ…っ…」
思い切り言い放つ彩芽に暫く呆気に取られてしまったが、あまりの必死さに笑いが込み上げてしまう。