第16章 story15“戦に私情、挟むべからず”
三成の手がさらりと彩芽の頬を撫でた。
「なぁ…奴はそんなに特別なのか…」
手はそのまま顔の輪郭をなぞり、首筋へ移動する。
「あっ……」
背筋がぞくりとして思わず声が漏れてしまう。
「三成…っ、ど…したの…っ?」
「なんだ…俺の言葉の意味がわからんのか?」
彩芽はぎゅっと下唇を噛み締めるとしっかりと三成を見つめた。
そうじゃない、気になったのはそうじゃない。
「違う、どうして…そんな顔してるの」
「…!」
彩芽の言葉に三成は大きく目を見開く。
見上げる三成の顔は、彩芽にはとても哀し気に見えていた。
「………」
「三成…」
起き上がり三成は彩芽に背を向けた。
「すまない、取り乱した…」
「ううん……」
少し乱れた襟元を直し三成を見つめる。
「俺は…俺の仕事をする、ただそれだけだ」
「………」
背を向けたまま静かに言う三成。その背に彩芽はそっと触れてみる。
「……!」
三成の鼓動が手に伝わってくる。
冷静な言葉を話しているとは思えないほどに熱く、早い。
「…俺の前では誰も死なせん、幸村も」
「うん…でも」
凛とした声で彩芽は三成の背に言い放つ。
「三成もだからね」
その言葉に三成は振り返る。
目が合うと彩芽は照れたように笑った。
(その言葉だけで…俺は何度でも前を向ける)
「あぁ…」
三成も小さく微笑んだ。
三成の部屋を後にした彩芽は門前の掃除に取り掛かっていた。
「………」
(三成、力強かった…)
今更に三成が男だと感じてしまう。
三成の事を考えていると掃除の手は中々進まずにいた。
足元には小さな花が咲いていた。
春はもう、そこまで来ている。