第16章 story15“戦に私情、挟むべからず”
「小田原ですか?」
「あぁ、我ら真田も秀吉公に加勢する事となった」
上田へと戻った幸村は父昌幸から呼び出されていた。
大坂で命に背いて彩芽の側にいたことについては大きく咎められず、日常を過ごしていた。
怪我を負った彩芽を心配した昌幸の気持ちがあっての事だろう。
「幸村、お前は石田殿と共に忍城を攻めるのだ」
「…三成殿」
「総大将は石田殿と決まったと文が届いておる」
「…!!」
「今一度大阪に出向き、軍事会議にも参加せよとの仰せだ」
「私が…」
豊臣の大事な戦の軍事会議に部外者の自分が呼ばれる。
幸村に寄せられた期待の表れだった。
「出立は春…それまでに十分鍛練を積め、雪が溶けたら兵を率いて大坂へ向かうのだ」
「はっ…!」
自室に戻った幸村は彩芽の事を考えていた。
(…彩芽殿は戦が始まることを知っているのだろうか)
上田にいた頃は戦に行く度に不安そうな顔を見せていた。
涙を堪えるように唇を噛み締めていた。
そして無事に戻ると子どもの様に泣いて抱き着いてきた。
「また、会えるのだろうか…」
幸村の脳裏に焼き付いているのは告白をされて赤く染まった顔をした彼女。
美しい女性へと成長した彩芽。
上田の雪は深い。
それでも雪の下で確実に春は育っており、新しい生命が雪解けを待っていた。