第14章 story13“せせらぎと心音”
その日の内に幸村とくのいちは大坂を発った。
彩芽の手には思い出の羽織が握られていた。
「これは 彩芽殿が持っていて、私の代わりに貴方を守れるように」
そう言い残して行ってしまった。
乱世の今、離れたら会えなくなる可能性が高いことを 彩芽は十分わかっていた。
両親、そして兄。
みんな会えなくなってしまったのだから。
二人の姿が見えなくなるまで、 彩芽はその背中を見送っていた。
幸村が伝えてくれた想い。
「…………」
(私の事…好きって言った………)
もちろん 彩芽も幸村の事は好きだった。
だが、その『好き』がどんな『好き』なのか 彩芽にはまだわからなかった。
城に戻ってからも 彩芽は部屋の中で一人、羽織を見つめながらずっと考えていた。
「……幸村///」
急に恥ずかしさが込み上げて来る。
熱くなる顔を彩芽は必死で冷まそうと手で押さえた。
「おい」
「っわぁ!///…き、清正っ!?」
「何、百面相してんだ」
「…!」
彩芽は慌てて顔を手で覆う。
「…わ、たし変な顔してる?」
「してる」
「……う」
「………」
(あの野郎…何か動きやがったな…)
眉間に皺を寄せて清正は溜め息を吐いた。
「そういえば…最近お城の中、慌ただしいね」
「ん?あぁ…もうすぐ大きな戦が始まるんだよ」
「…戦」
「秀吉様の天下統一への最後の戦だ」
どこかワクワクしたように話す清正とは反対に 彩芽は不安な顔をしていた。
「そんな顔すんなよ、俺達は負けねぇから」
夏が終わり、秋の気配と共に城内は更に慌ただしくなっていた。
大きな戦、関東北条への進撃が幕を開けようとしていた。