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戦国四重奏 (戦国無双3)

第11章 story11“夢幻の藤”



彩芽の寝顔はこの世の何よりも美しく見えた。



彩芽は、夢を見ていた。

そこは大坂ではなく、かつて住んでいた上田の町。


「ここは……清正は…?」


祭りに 来ていたはずの自分。
けれど周りに人影はなく、ひっそりとしていた。

「あっ…!」

彩芽の鼻を微かに掠めた香り。
振り返ると大きな藤の木が満開の花を咲かせていた。

「これは…上田の藤……?」

何故自分が上田の藤の前にいるのか考える事も忘れ、彩芽は藤に見入っていた。





「彩芽」






呼ばれた声に目線を正面に戻す。
藤の木の下、そこにはもう二度と会えないと思っていた人の姿があった。




「う…そ……兄上………?」




上田の地で失ったはずの兄が、目の前にいる。
自分に笑い掛ける兄は昔と何一つ変わってはいなかった。


「どうしたの、彩芽」


兄の声にびくりと肩を震わせる彩芽。

「本当に…兄上なのですか……」

「うん、彩芽…一人にしてすまないね……」

「!!」

その一言で目の前にいる兄が亡き者であると確信出来た。


「今…彩芽はちゃんと笑えている?ちゃんと幸せかい?」

「兄上…私は…!謝りたい人がいるのです…」
「だから…そんな浮かない顔をしているんだね」

頬に触れる兄の手はひんやりと冷たかった。

「それなら…彩芽、ここに居てはいけないね」

「え…」

「早く戻らなくては…待ってる人がたくさんいるようだね」

兄の言葉で藤がざわめき出す。
強い香りと共に一斉に散り出した花弁で視界が遮られていく。

「これで本当にさよならだ…彩芽、どうか…どうか幸せで」

「兄上っ!?待って兄上…!」

ちゃんとお礼も言えていない。
このまま別れるなんて嫌。

「兄上っ…!ずっと守ってくれてありがとう!私…心から笑えるように、後悔しないように生きるから!」




藤の花弁の隙間に笑ってる兄が見えた。
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