第11章 story11“夢幻の藤”
祭りの日から三日、城下町は普段の姿に戻っていたが彩芽は未だに目を覚ましていなかった。
「幸村様」
「すまなかった、それで…父上は」
「…昌幸様は幸村様に即刻上田に戻るようにとの事でした」
「そうか…」
くのいちから父の答えを聞くと幸村は眉を寄せ俯いた。
「ですが、信之様は…彩芽さんの側に付いているようにとの事でした」
「兄上が…」
「上田の事はしばし自分と昌幸様に任せよ、と」
兄の言葉を胸に刻むように幸村はゆっくりと目を閉じ、一呼吸すると目を開けて立ち上がる。
「彩芽殿の所へ行ってくる、そなたはゆっくり休んでくれ」
「はい」
幸村は迷いのない口調で言うと部屋を出ていった。
「ふふふっ!やぁっと素直になったかにゃー!…でもちょっと妬けちゃうかな……」
真っ直ぐな瞳に戻った自分の主をくのいちは嬉しく思いつつも、どこか寂しく感じる気持ちもあった。
彩芽の部屋を訪れた幸村は彩芽の眠る枕元に腰を下ろした。
「彩芽殿…」
名前を呟くと彩芽の目にかかった前髪をそっと手で流した。
「あの時…私は気付いていたのに、貴方の呼び掛けに応えなかった…痛い思いをさせて本当にすみません…」
反応はない、だが幸村は彩芽に語りかけ続ける。
「もっともっと強くなる、誰にも…己にも負けぬ強者になって彩芽殿を守れる男になる…」
幸村は眠り続ける彩芽に誓うようにしてそう言った。