第9章 story9“大阪夏祭り”
くのいちは話していた相手が幸村の想い人、彩芽とは気付かず、また彩芽もぶつかってきた相手が真田の忍とは全く気付いていなかった。
「彩芽、どうした?また絡まれたか?」
「ううん、女の子とぶつかっちゃっただけ!大丈夫だよ」
「そうか…あ、団子買ってきたぞ」
「わぁ、ありがとう清正!…食べていいの?」
「何言ってんだ、当たり前だろう」
清正から団子を受け取ろうとした彩芽の顔から急に笑顔が消えた。
その理由は彩芽の耳を通り抜けた言葉にあった。
「幸村様ーっ!!ちょっと待ってくださいってばー!幸村様ー!」
慌てて振り向けば人混みに紛れて干菓子屋であった彼女が叫びながら走っている。
「……………!」
こんな人混みの中でも聞き取れてしまった、貴方の名前。
「彩芽…?」
「ごめん、清正…私行かなきゃ」
「行くってお前…」
彩芽は清正の目をじっと見つめて告げた。
「幸村が…幸村がここにいるかもしれないの」
「……!」
「さっきぶつかっちゃった子が、幸村の名前を呼んでいたの…私確かめに行ってくる!」
「…名前が、同じだけかも知れないだろう」
「でも…っ」
「また、変なヤツに絡まれたらどうする」
「清正…!」
清正は必死に冷静になり、彩芽を止める。
その内心は押し潰されそうな程に苦しく、また焦っていた。
「アイツは!彩芽には会わないと言っていた…!!」
「………え?」
清正の言葉に彩芽は驚きの表情を隠せない。
「清正は…幸村が大坂にいること知っていたの……?」
「………」
何も答えない清正に彩芽は確信を感じた。
そしてくのいちの去った方へと走り出した。
「彩芽!!」
彩芽はあっという間に人混みに紛れてしまった。
「くそっ…!」
清正もまた走り出す。
二人が去った後にはもう食べられる事のない、団子が2本椅子の上に残されていた。