第9章 story9“大阪夏祭り”
「お嬢ちゃん!見てっておくれよっ!」
「ほらほら、うちだって美味いよー!寄ってきなっ」
「わぁ…っ」
夕暮れ時になると清正が彩芽を部屋まで迎えに行き、二人は既に城下まで来ていた。
桜色の浴衣に身を包んだ可憐な彩芽を見て清正が固まったのは言うまでもない。
足元には三成から貰った草履が華を添えていた。
歩く度にあちこちの出店から声を掛けられ、彩芽はきょろきょろと忙しそうに首を動かして出店を見てまわる。
「さぁ、いらっしゃい!」
「何処のお店も見たことないものばっかり!」
「前、ちゃんと見て歩け。転ぶぞ」
「うん、気を付ける」
注意したはずの清正も満面の笑みで応える彩芽を見ていると顔が綻んでしまっていた。
「清正…連れてきてくれてありがとう、凄く楽しい」
「………///」
「あ、あそこのお店見てきていい?」
「え、あっ……ちょっと待てって!」
清正が止めるのも聞かず彩芽は人混みにのまれてしまった。
「ったく…小せぇくせに勝手に行ったら探せねぇだろーが…」
はぁっと息を吐いて清正は彩芽の後を追った。
そんな清正の心配など知らない彩芽は 一人、小間物を売る店の前にいた。
「可愛い…」
店先にはきらきらと輝く簪や、花や鳥が描かれている櫛、彩芽の見たことのないものばかりが並んでいた。
「おい…あれ……」
「あぁ…上玉じゃねぇか、高く売れそうだなぁ…」
そんな彩芽の背後に迫る二つの影。
商品に見とれている彩芽は背後に迫る危険に全く気付いていなかった。
「…んぅっ!?」
背後から突然口を塞がれる。
彩芽は何が起こったのか理解出来なかった。
(何…?嫌…!!)
あっという間に路地に連れ込まれてしまった。
抵抗して動こうとしても彩芽の力では男二人には歯が立たなかった。
「悪いな…お嬢ちゃん、大人しくしてれば悪いようにはしねぇよ」
「……!!」
「これからさらって売り飛ばすって言うのに悪いようにしねぇとは笑えるなァ…へへへ…」
「!?」(この人達…人さらいだ……!)
状況がわかると更に恐怖心が増す。
彩芽の体は小刻みに震えだしていた。
(怖い…!)
堪らず彩芽はぎゅっと目を瞑った。