第5章 story5 “月夜の藤”
二人きりにさせて何かあるんじゃないかと心配になったなんて、彩芽には言えない。
でも、清正の本音はこの男にはバレていた。
「大の男が嫉妬とは……器が小さいな、清正」
ため息混じりに三成はそう言った。
「………こそこそ後をつける男が器が大きいとでも言うのかよ」
清正も三成に負けじと言い返す。
互いに睨み合いが続く中、ただ一人状況が読めない彩芽。
「え…?何…うつわ…??」
二人を交互に見ながら彩芽は首をかしげた。
何となく重い空気だけは読み取った彩芽は清正に声を掛けた。
「清正も見ますか?藤、綺麗ですよ」
「…………」
「…………」
ニコニコと笑う彩芽を見て清正と三成はほんのりと顔を赤くした。
同時に、コイツはもしかして鈍いのかもしれないと感じる二人だった。
「此処の藤か終わる頃にきっと上田は藤が咲くのでしょうね…二人にもいつか見てもらいたいな、大きな藤の木があるの」
手を大きく広げて彩芽は言った。
その時、
「おーい!彩芽ー!?大丈夫ー?」
屋根の上から聞こえたのはねねの声だった
見上げると大きく手を振っている。
「大丈夫ですよー!今戻りますね、おねね様っ!…二人とも、戻ろう?」
彩芽は返事をすると城内に戻って行った。
残された男が二人。
いつか二人に上田の藤を、そう言った彩芽に返事が出来なかった。
彩芽が笑っていても何処か寂しさを感じる。
清正はある男の姿を思い出していた。
彩芽を上田に迎えに行った時、必死になって彩芽の名を叫んでいた男。
「…戻るか?」
「…そうだな」
清正の考えていること等全く知らない三成は 彩芽が歩いて行った方を向いてそう言った。
「………真田、幸村…か」
真っ直ぐな目をしていた、清正はそんな印象を幸村に持っていた。
彩芽の頭の中には、アイツが居るんだろうか。
そんなことを考えてしまう自分は、やっぱり器が小さいのかもしれないと思う清正だった。