第2章 story2“気付いた想いの名は”
翌日から、彩芽は身の回りの物の整理を始めた。
とは言え、2年前に体一つで上田に来たので、2年経った今も大した荷物はなかった。
「あ……」
着物をまとめていた時に彩芽はふと手を止める。
見つめた先には2年前のあの日に幸村が彩芽に掛けてくれた羽織があった。
返さなくてはと思いつつ、なんとなく返しそびれてしまっていた幸村の羽織。
「…………」
彩芽はその羽織を奉公先に持っていく荷物の中にそっと包んだ。
側にいられないのなら、せめてこれだけは。そんな思いだった。
出て行くと決めたのに、未練がましい自分に彩芽は溜め息をついた。
ある程度の荷物がまとまった所で彩芽はいつもの様に掃除に取り掛かる。
「彩芽様、どちらへ?」
「門の前を掃いてきます、桜が散り出して花びらが溜まっていたの」
「お掃除も程々で良いですからね、元は私達の仕事なのですから」
「大丈夫ですよ!…私が、やりたいんです」
にっこりと微笑み、女中は立ち去った。
桜が散り降る門前を彩芽は一人、竹箒で掃いていた。
桜が散って、葉が見え出す頃になれば彩芽の好きな藤の花が咲く。
「今年も…皆で藤を見たかったな…」
桜を見つめながら彩芽は呟いた。
遠くで鍛練中の兵達の声が聞こえる。
きっと幸村も汗を流している事だろう。
「私も…頑張らなきゃ」
よし、と一人で気合いを入れて彩芽は再び箒を動かした。
ふと、目線を前に向けるとこちらに向かって黒い馬が走って来るのが見えた。
「誰だろう…?お客様…?」
馬は彩芽の前で止まり、乗っていた男がヒラリと降りてきた。
綺麗な銀髪に筋肉質の体、意志の強そうな瞳。
暫くの間、 彩芽はその男から目を離せずにいた………。