第2章 story2“気付いた想いの名は”
彩芽が自分の部屋に戻ると、部屋の前の廊下に人影があった。
「幸村…?」
「お帰りなさい、随分と時間が掛かっていましたね。」
幸村がいつもの様に優しく笑いかける。
彩芽はそんな幸村を見て胸が締め付けられる思いだった。
幸村はいつだって私に優しい。
今だってこうして心配して私を待っててくれた。
「彩芽殿?」
このまま側にいれば、私はずっと幸村に甘えてしまう。
幸村を縛り付けてしまう事になる。
そんなのは、駄目だ。
「彩芽…殿?父上は…何て」
「…久しぶりに一緒に御茶を飲んだの、私の淹れた御茶を飲みたいと仰ってくれてね」
「…御茶?」
「うん。私の事ね、綺麗になったって褒めて下さったの!」
「ち、父上が?!」
少し照れたように笑う彩芽に幸村は慌てて口を開く。
「私もそう思っています!彩芽殿は…綺麗になられた!////」
「しーっ!幸村…っ、声が大きい…!」
声を張り上げる幸村に彩芽は慌てて駆け寄り小さな手で幸村の口を塞ぐ。
「!!………///」
「皆もう休んでるんだから…」
「……すみません…//」
落ち着いた幸村を見て彩芽はにこっと笑った。
「じゃあ、私ももう休むね。待っててくれてありがとう…幸村」
「あ…はい、私も戻ります」
「あっ…幸村!」
引き返そうとした幸村を彩芽は咄嗟に呼び止めてしまった。
「はい?」
優しい目で振り返る幸村に彩芽は言おうとした言葉を飲み込んだ。
「……お休み、なさい…」
「?…お休み、彩芽殿」
部屋に入るなりストンと座り込んで彩芽は大きな溜め息をついた。
「幸村に…さよならなんて、言えないよ……」
自分にとって幸村がどんな存在なのか、はっきりとした気持ちはわからない彩芽だったが、離れがたい存在であることは間違いなかった。
幸村もまた、自室に戻って溜め息をついていた。
「何か……少し様子がおかしかった気がする……」
いつも側にいるから、彩芽の変化にはすぐにわかった。
何かを自分に伝えようか迷ってる事もわかった。
ただ、それが何なのかはわからない。
「これ以上、問いただすのもな…」
良くない、と自分に言い聞かせ幸村は休むことにした。