第23章 戦国四重奏外伝 “同じ体温”
「この先の宿場町で今日は休みましょう」
「うん」
大坂城を出立してから三日目、幸村と彩芽は賑わった宿場町の側まで来ていた。
とは言え大坂の城下町に比べれば小さい。
町中へ入った二人はすぐに宿屋を見つけた。
「宿の裏に馬を預けて来ますね」
「じゃあ私が女将さんと話してくるね」
「大丈夫ですか?」
「もう…私だってそれくらい出来るよ」
「じゃあ…お願いしますね」
過保護と言うか何と言うか。
幸村は彩芽に甘い。
ここまでの道中だって関所での色々な手続きや買い出し、宿の交渉だって全て幸村が行ってきた。
「すみませんねぇ」
「いえ…大丈夫ですよ」
宿の女将との話が済んだ所で幸村もその場にやってきた。
「話は終わりですか?」
「幸村…うん、終わったよ」
「?…何か問題でも?」
終わったと言う割りに何となく歯切れの悪い彩芽の言い方に幸村は首を傾げる。
そんな様子を見て彩芽はもごもごと言いにくそうにしながら話し始めた。
「あのね…今日は一間の部屋しかもう空いてないって……他に宿もないし、それでいいですって私…言っちゃったんだけど……」
「一間………」
彩芽の言葉を頭の中で幸村は繰り返す。
今までの宿は二間ある部屋を取れてきた。
その為道中、夜を同じ部屋で過ごした事はまだなかった。
でもそれはただ運が良かっただけだ。
「………駄目だった?」
否定も肯定もしない幸村の顔を不安そうに彩芽は見上げる。
「…………いえ!参りましょう」
駄目なわけ、ない。
ただ彩芽の前では紳士で居たかった。
今夜己の欲に打ち勝てるか、幸村はその事に頭を悩ませていた。
女将に案内されて向かった先で戸を開けると8畳ほどの部屋が1つ。
張り替えたばかりなのか畳の良い香りが鼻をくすぐった。
チラリと彩芽の様子を伺うととても緊張した様子で瞬きを何度もしていた。
「…彩芽殿」
「ひゃあっ!あ…はい!」
急に声を掛けられて彩芽は肩を震わせて勢い良く振り向いた。
「彩芽殿、心配なさらずとも休む時は私は廊下に出ます故、ゆっくり休んで下さい」
「………幸村」
幸村は優しい笑顔を向ける。
自分を気遣ってくれているんだとわかる。