第12章 おいてきた傘
阿伏兎さんといると、いきなり聞き覚えのある声が聞こえました。だけどその姿は私には見えません。
「手当て?地球産はそれくらいで手当するのか…大変だね。阿伏兎、俺の部屋に連れてくからまたね」
視線を向けると、にこにこした神威さん。
みんななんて言ってたんでしょうか
「おう、殺さねぇようにな」
「さぁね」
…殺されるかもしれないんでしょうか?
怖いです
「…」
「いくよ、ついておいで」
「はい」
阿伏兎さんは優しいからいてほしかったのですが…
私は今殺されに行ってるようですよね
「じゃあなお嬢ちゃん」
「し、失礼します」
部屋から出ると綺麗な絨毯が足元に見えました。
ドン
「あ…」
「…」
この船?の中には慣れてないものだから
歩くだけでいろいろなものにぶつかります。
いたた…神威さん待ってください
神威さんは気が付いてないようで、すたすたと足音が聞こえます。
必死についていくものの
すごく息が上がります。
普通の人よりひどく疲れる病気もあって、歩くだけなのに辛いです。
「はぁ…っ」
「……はぁ」
私の息とは違う、ため息。を神威さんがつきました。
あれ?さっきまで前にいたはずなのに、すごく近くで聞こえます。
「?」
「…」
首をかしげると同時に体がふわりと浮いたように感じます。なんでしょうか
「あわわ」
「アンタ危ないから俺が連れてくよ」
「え…」
包容感と人の暖かさで、抱っこされていることがわかります。だけど下に地面が見えることから、担がれているのでしょう
「さっきからいろいろなものにぶつかってただろ」
「あ…」
わかってたんですね、すごいです
「…」
「…うっ…はぁ…っ」
「…なに、…あ」
私の息使いで分かったのでしょうか
この体制は私にとっては苦しかったのですが、
神威さんはそう言うと、わたしをちゃんと抱っこしてくれました。
「ありがとうございます」
「…こっちのほうが楽だし」
「…」
神威さんは、ホントは優しい人なんですね、だって普通なら気がつかないですよね
優しいから気がついてくれたんですよね。
「…」
「ありがとうございます」
「…」
嬉しくてもう一度感謝しました
どんどん遠くなる廊下は反対方向に進みます
抱っこ。なんていつぶりでしょうか
なんだかすごく暖かいです。