第12章 おいてきた傘
「…いっ…」
視界に入ってないけれど、彼が腕を掴んでいるのでしょう。
それにしても力が強いです、こんなに強く握られたことはなかったので、驚いてしまいました。
「何処へ行くつもりだい?」
「かえ…ろうと…」
「なに?」
「?!」
その言葉とともにどこからか、ぴきぴきという音がしました。
何の音でしょうか、腕に痛みが走ります。
「やれやれ、団長のお気に入りさんかわいそうに」
ありえないほどの痛みに顔を歪める私とは反対に
のんきに大きな男は言いました。
「一緒に帰るのは俺だよ。何回言わせれば気が済むの?」
「ん…っ!」
ぴきぴき、
やっと首を向けて腕を見てみると、
やっぱり腕の痛みはこの人で
包帯のしてある手が、ぎゅっと私の腕を掴んでいます。
「痛いかい?」
「っ…」
笑みのこもった声で、そう聞く彼に、私は素直に頷きました。
「そう、一緒に行く気になった?」
「…」
「まだ、なんないの?別れの挨拶が言えればいい?」
少し声を柔らかくして問う彼は、こんなに強く私の腕を握っていいるとは思えません。
声は優しいのに、やってることはすごいです。
私はここで行かなきゃ殺されますよね。
でも行きたくないです、せっかく友達ができたんですから、それに久野瀬さんも…
「たまに、帰ってきてもいいんですか?」
「いいよ。たまに。ならね」
ぴきぴき
これはきっと、骨が折れていく音でしょう
骨と骨が重なり合って音がなります。
「……行きます。」
「いいこ。阿伏兎、帰るよ」
そう言うと男の人はやっと腕を離してくれました
「いっ…たぃ……」
「ふふっ、早く言っていればよかったね」
なんて、視界に入った彼は笑っています
無邪気です。
「骨が折れました」
「折れてないよ、ひびを入れただけ」
「いれただけ?」
「そう」
さらっと、いれた「だけ」なんて…すごい事を言っていますよ…
「お嬢ちゃん、まぁおとなしくしときゃ大丈夫ってこった」
大きな体の男は呆れたようにいいました、この場だからいい人にみえるけど、ただの誘拐犯のようなことをしてるんですよね
「でも、俺が挨拶をするだけ、アンタは船に阿伏兎と戻っててね」