第2章 一章「朝の日課はウィッグを被る事です」
「泉ー!おーきーてー!」
なんだかお腹の上が重い。っていうか朝から喧しい。
しかもなんかお腹の上の何かがゆさゆさと揺れている。おいやめろ。
「あーもうなによ!」
「おはよ」
目を開けると、健ちゃんがにこにこ笑いながら私に覆いかぶさっている。
時計を見ると、まだ朝の六時だ。そういえばこの部屋は私に与えられた7畳間だ。元々いた家の家具を移動させても結構なスペースがある。
あ、いや今はそんな事より……
「どけ。重い」
「今起きてるの、俺と泉だけだよ?」
「それがどうし……んっ!?」
唇に一瞬なにかが触れる。
健ちゃんが私に覆いかぶさったまま、ご機嫌な様子で私の唇をなぞる。
「今なにしたの」
「ん?おはようのちゅー」
「きっ……」
「き?」
「きゃぁぁぁぁぁぁ!!!!」
いろんなところからどどどどっという騒音が一気に聞こえる。そして、バンっと私の部屋の扉が開かれた。
「泉!どうした!?」
「健ちゃんに……健ちゃんに……」
「ん?」
「ファーストキス奪われたぁぁぁぁ!!」
私は完全に取り乱していて、一番に駆け込んできたまーくんに抱きついてむせび泣いた。
まーくんは私を抱きしめ返しながら、健ちゃんを睨む。いや、睨んでいるのはそこにいる全員だ。
「おーっと……ちょっとマズイ雰囲気かな?」
健ちゃんは冷や汗を流しながら、後ずさる。相対して他のみんなは健ちゃんに詰め寄る。
「ご、ごめんなさい。その、俺が今日は一番早く起きるから、ちょーっと泉と楽しい朝をと思って……ちょ、坂本君!それ目覚まし時計!人殴っちゃいけないタイプのやつだよ!?」
結局健ちゃんはあの後みんなにこっぴどく怒られ、彼の計画していた「楽しい朝」は「恐ろしい朝」へと変わってしまった。
そして、私はみんなが出て行ったのを確認すると、悲しいかな、男装を始めるのだった。まぁさ、もういいよ。諦めるよ。
「あ、まーくん。ごめん、朝ごはん手伝うね」
「いいよいいよ。ゆっくりしてて」
「だめ。家事は基本的に私がやるから」
「ふっ……ありがとな」
まーくんは目を細めて優しい笑みを浮かべた。