第7章 六章「桜舞う樹の下でも、いつもどおり」
寒い季節も終わりに近づき、最近は心地よい陽気が続いている。
なんだかんだあったが、もう春だ。
私は洗濯物を干しながら、足元でじゃれつく子猫を笑顔で見ていた。
何故子猫がここにいるのか。その理由は、私の誕生日まで遡る。
三月七日、この日は私の誕生日であった。
「みんなおはよ」
パァァァァン!!!
突然の破裂音に私は挨拶をつい飲み込んだ。
リビングには、メンバーがニコニコと笑顔で私を迎えている。
「なに!?」
「泉、誕生日おめでとー!!」
「えっ?あ、そっか、私今日誕生日かぁー」
もちろん、これは正式な誕生日であるのかは誰も分からない。ただ、施設に入る前に病院へ行ったところ、この辺りに生まれたとの診断をくだされたので、この日を誕生日だと言っているのだ。
「もう泉もアラサーだな!」
「ごめん、ちょっとなに言ってるかわかんない」
「おばさ…そのフライパンをしまってください」
とかなんとかからかわれつつも、その日はみんなオフにしていてくれたらしく、私の代わりに家事をやってくれたりした。
みんなやる事がなくなり各々自由に自室で過ごしていると、准君が入ってきた。
「なぁ、しりとりしようやー」
「うん、今度ね」
「……」
沈黙。私は読んでいた本に再度目を落とした。
すると、准君が悲しそうな顔で本の下から顔を出してくる。
「なぁー、そっけなさすぎひんー?」
「あぁ、ごめんごめん。本が面白くて。しりとりね」
「ほな、行くでー。りんご!」
「ごうもん」
「……」
准君は傍らで体育座りをして落ち込んでいるが、私は本に夢中だ。だが、それも可哀想になってきたので、彼の頭をぽん、と叩いた。
「どうしたのー?」
「せっかくの誕生日やし、なんかして欲しい事ある?え?キス?え?その先も?もー、泉ったら欲張りさんやなぁ」
「ごめんね?私と会話してくれる?」
「泉ーってあぁぁぁ!!岡田、なにやってんだよー!」
「健ちゃん」
「泉っ!誕生日だし、なにかして欲しい事ない?え?キス?え?その先も」
「そのボケはもうやったよ!!!!」
騒がしい声につられたのか、みんながぞろぞろとやってきた。