第1章 序章「幼馴染に頼まれてこういうことになった」
私には、家族がいない。
所謂コインロッカーベイビーというやつだ。
でも、人生一人で生きてきた、なんて言うつもりは毛頭ない。少なくとも、私をこの歳まで生かしてくれた人がいるのだから。
でも、私には…愛というものがどういうものなのか分からないのだ。
初夏、シャワーを浴びた私は、携帯電話が震えているのに気がついた、画面に表示されている名前を見れば、きっと何人もの人間が驚くことだろう。
「はい」
「俺だよ俺!百万振り込んでくれよ!」
ぷちっ
なんの躊躇いもなく電話を切ると、またしても同じ人物から電話がかかってきた。
「なぁ、ちょっと相談があるんだけど」
「ってか、名乗りなさいよ」
「あ、イケメンですっ☆」
ぷちっ
トゥルルルル…
「すぐ切るのやめてくんないかな!?俺泣くよ!?」
「あ、ごめん。つい。で、剛。何の用?」
声の主は、森田剛。
人気を博している、ジャニーズ事務所を代表する「V6」のメンバーの一人だ。
私と剛は幼い頃、埼玉県に住んでいたのだが、その時に仲良くなり、今でもこうして連絡を取り合っている。
「実は最近さ、V6での活動が少なくなってきてるから、大きな部屋借りてみんなで住もうかって話になってるんだよ」
言われてみれば、最近は個々の活動が目立ち、V6全員が揃って出演している番組を見ることは少ないかもしれない。
「ふうん。いいんじゃない?で、なんで私に相談?」
「いやぁ、泉も一緒に住んでくれないかなーって」
「あー。…………はぁ!?」
「いや、だってさー、やっぱり女手がないとさー。それに俺ら全員と共通の友達って泉しかいねぇし。泉の仕事的にもいいかなって」
剛の言った私の仕事だが、私は今「便利屋」という仕事をしている。後に詳しく話すことになるので説明は割愛するが、法に触れないことならなんでも引き受ける仕事だ。