第9章 wings
「ここなら良い感じかな。」
月が暗闇の空に高く昇っていっそう綺麗に見える時間帯に仕事が終わり、デスクワークであまり動かさなかった体をほぐしながら歩き回って、流魂街の森の中に丁度いいスペースが空いた場所にたどり着いた。
一応私がここにいることが誰にも見つからないように結界を張っておく。
「艶斬、よろしくね。」
肩の力を抜いて斬魄刀を両手で構える。
初めての始解で下手に力が入らないよう、目を瞑ってフーッと息を吐いて集中力を高めた。
「…燐光煌めけ、艶斬!」
解号を唱え終わった瞬間に私の霊圧がドンと跳ね上がり、
結界の中がむせ返りそうな程私の霊圧で満たされる。
空気中から吸い取られるように伸びる青い風が細い刀身を包み弾けたと思うと、洋刀をモチーフにしたような、等身大程の巨大な斬魄刀が姿を現した。
刀自体が青く眩しい光を放ち、表面には太陽フレアのようにバチバチと細い静電気みたいな閃光が走っている。
「え、デカっ!軽っ!何これ!?」
初めて見る始解姿の艶斬に驚いた。
これだけ大きいのに空気を握っているのではと錯覚してしまう位軽い。
何よりもこの畏れ多いフォルムに目を奪われた。
驚きと感動で呆然とする私に、元気な無数の閃光が「どうだ!」と言っているようにも見えた。
「…凄い…私、始解したんだ…!」
嬉しくて握る手に力が入る。
もうちょっと眺めていたい気もあったけど、
あまり長い時間ここにいるわけにもいかないので。
一息置いて私は静かに始解を解いた。
今までの騒ぎが嘘のように辺りが静まり返る。
眩しかった艶斬も最初の姿に戻り、それをゆっくりと鞘に収めた。
「明日もまたここに来よう。」
『そうだね僕も君に使ってもらいたいし。』