第6章 dream
何かを必死に思い出そうとしている朽木の集中力を絶やさないよう、私は黙ったまま朽木の一言を待った。
しかし、どうも時間がかかるらしく、私も次の隊へ行かなければならないために、仕方なく私から切り上げようと声をかけた。
「あの、朽木隊長。私まだ仕事が残ってるので…。」
その時、フッと朽木の緊張感が解れたように、
朽木の眉がピクリと小さく上下した。
「朽木…か…。」
「どうかなさいましたか?」
恐る恐る尋ねた私の目を真っ直ぐみつめて、少し躊躇う素振りを見せてから朽木が口を開いた。
「…いや、朽木と、呼ばれるのが引っかかってしまっただけだ。」
「苗字で呼ばれるのが好きではないんですか?」
どうなのか…。
朽木自身にも分からなかった。
ただ、愛した緋真と雲雀を重ねているだけなのかも知れない。しかし、何の共通点も無いのにどうしてこんなにも懐かしさを覚えるのか。
(どうしたのかな?苗字で呼んで欲しくないのを伝えたいのかな?)
ほんの少しだけ、抵抗する自分を落ち着かせて、私は言った。
「白哉、隊長?」
一瞬だけ、私を見ているのに私を見ていない視線を感じた。
驚きに開かれた目は私の姿がはっきりと映っていたのに。
「すみませんっ、とんだご無礼を…!」
「…悪くない。」
「へ?」
「亡くした妻を思い出していた。兄は…どこか似ている。」
「そ、そうですか…。」
「これからも、白哉と呼んでくれぬか?」
「了解しました…。」
きっとこれは義務なのだと。
愛した人を亡くした淋しさを私が埋めてあげる役なんだと。
私は思った。