第5章 stand
なんやかんやで入学から六年。
私以外の生徒は皆、卒業前までに斬魄刀を手に入れた。
死神にとって必要な事は全て独学で練習しながら取得していったが、
普段はほぼ霊圧無しに近い状態で居るため、
実戦で使うとなると上手くコントロールできるか定かではなかった。
「聞こえますかー?おーい。」
浅打に話しかけてみるが反応なし。
斬魄刀が無ければ死神になれない事は百も承知だったけど、
もしかしたらの望みを賭けて先生にお願いしてみた時があった。
結果、成績の悪さ等を指摘され呆気なく
「お前に死神は無理だ。」と断られた。
入学してからは一人暮らし。
握ったままの浅打をそっと床に置く。
斬魄刀にならなくても、六年間私に付き添ってくれた大事な思い出の品。
放り投げる事なんてできなかった。
「…私、技術開発局で働くよ。応援してくれるよね?」
窓から入る月明かりに照らされて存在感を放つ浅打を再び手に取り、
抱えるように持って私も床に寝そべった。
朝日の眩しさで目が覚め、浅打を壁に掛け家を出る。
技術開発局には私の資料を先に送っているため、今日から役目を任される事になっていた。
「おはようございます!」
「おう。来たか新人さん。」
「今日からお世話になります、瀬越雲雀です。」
「俺は阿近だ。よろしくな。」
(顔は怖そうだけど、いい人そう。)
彼への第一印象はそれだけだった。
阿近の後に着いて行き、入ったのは監視カメラの映像モニターが設置されている部屋。
「穿界門の監視を頼む。不審者や異変が起きたら知らせてくれ。」
それだけ言って阿近は去ってしまい、十はあろうかと思われるモニターと私一人が残された。
仕方なく真ん中にある椅子に座り、言われた通り監視を続けた。
何も起きないまま一年が過ぎ、
相変わらず頭がおかしくなるんじゃないかと思うくらいモニターを眺める毎日。
ずっと個室に居るため他人との交流はほとんど無い。
(私はこのまま一人で死んでいくんだ・・・。)
人生に疲れて完全に諦めようとしていた私に、
ようやく転機が訪れる。