第16章 average
「ええ。」
「父に、言われたんです。貴女をお助けするように、と。父は貴女を一目見た時から犯人ではないと信じていたようです。」
「鶴さんは、最初から何かを知っていたのですか。」
「昔から情報量はすごかったのですが、どこから入手してるのかは…。」
私は冊子を元の場所に戻し、他の物にも目を向けた。
台の上に置かれた、歪で汚れたうさぎのストラップをそっと手に取る。
血が固まって黒く変色し、元の色が全くわからない状態になっていても、触れると蘇る記憶は鮮やかで綺麗だった。
(私…まだこんな気持ちになれるんだ…。)
「あまりここには長居できません、行きましょう。」
島谷の後を追いかけるようにして倉庫を出た後、私はまた来るかもしれないとだけ彼に伝え、零番隊隊舎に戻った。
自分の部屋の床に座り込んで壁に背を預け、目を閉じる。
私は久々に艶斬の精神世界へ赴いた。
『やぁ、きっと来てくれるって思ってたよ。でも、突然どうしたんだい?』
水面にポツリと立つ私の目の前に艶斬が立つ。
「私…私の心が、あったの。」
『雲雀…僕を、見てくれる?』
「…?」
私はそっと顔を上げて、艶斬と目を合わせた。
『…うん。やっぱり雲雀は綺麗だね。』
「な、何をいきなり…。」
目をそらして戸惑う私に艶斬が一歩近付き、私の頬に手を添えた。
『この先、きっと辛いことがある。耐えられなくなったら、僕を頼って。わかったかい?』
「…わかったわ。」