第16章 average
「この度は雲雀様に何としてでも伝えなければならないことがあり、ここに来ました。」
「どうして…全員殺されたはず…」
「はい。私以外の者はお亡くなりになりました。
私は…あの日、地下倉庫で物資を整理しておりました。すると上の階から沢山の方の悲鳴が聴こえたのです。化け物が侵入してきた、という声が何度も繰り返され、私は恐怖のあまり物陰に隠れてしまい、こうして一人、助かってしまいました。」
夔竜の使用人は優秀だ。しかし、優秀過ぎるためにどんなことにも冷静さを失わない。
本当に淡々とあの日の状況を私に話す女性は、恐怖体験をしたにも関わらずアクセントのない口調で説明をしていく。
私は必死に頭を回転させて、どうしてどうしてが飛び交うカオスを振り払う。
「…あなたが倉庫から出たのは、いつですか?」
「翌朝です。」
「その間霊圧は、抑えていたのですか?」
「分かりません。とにかく隠れる事しか考えていなかったので。」
「…。」
(もし霊圧を抑えていなかったなら、間違いなく殺されていたはず。…それとも何か理由が?)
それから私は彼女と一言二言交え、隊首室でまた一人になって書類の整理を始めた。