第2章 虚実-日本茶屋のお兄さん-
日本人なら、やっぱり日本茶…だろうか。
“日本茶専門店”という看板に、○○が最初に目を引かれたのはいつだったか。
「うわぁ、美味しい!」
茶葉の販売のみならず、店内での喫茶も営業しているそこを訪れた○○は、一口に日本茶といっても幾つもの種類がある上、同じ茶葉でも淹れ方によって風味が変わることを、眼鏡をかけた一人の青年店員に教えられ、以来、すっかりその店の味に魅せられてしまった。
そうして、時間を見つけてはこの店に通うようになったのが、始まり……。
しかし、いつしか、
「そんなに美味しそうにしていただけて、私も嬉しいです」
日本茶について親切に教えてくれた、当初は店員と思い込んでいた青年が、実はこの店の若き店主だと○○が知ったのは、つい最近だ。
何も知らなかった自分を恥じる○○に、しかし、眼鏡の奥に見える彼の表情はあくまで柔らかい。
そんな彼の優しい笑顔に、○○が打ち解けるのは、すぐのことだった。
年の頃は○○より上…とはいえ、まだ若い青年でありながら、店主らしき落ち着きと趣きとを兼ね備えた彼は、いつの頃からか○○の良き理解者であり、話し相手であり、そして、相談相手でもあった。
式神達とは思った以上に仲良くできている、とは思うものの、そこは、やはり人間と人外。
時にはまあ、何かとあったりもする。
そんな時、どうにも聞いて欲しくなった時に○○が訪ねる先が、今や彼の店…というより、これまたいつの間にやら裏口(店と同じ敷地内に別棟の住居が建っている)からの出入りを許されて訪れる、日本茶屋の彼…だった。
店の切り盛りで大変だろうと思うのに、彼はいつでも笑顔で○○を迎えてくれ、手ずからお茶を入れてくれたりもした。
いつの頃からか、それが当たり前のようになっていた(といってもそんなに頻繁に訪ねているわけではないが)、ある日のこと。
「申し訳ありませんが、もう、ここには来ないでいただけませんか」
「え……」
「もちろん、お客様として店の方にお越しいただくのは歓迎いたします。ですが……」
『こんな風に裏口からは来るな』
そう仄めかされているのが分かって、○○は一瞬、凍りついた。