第9章 狂犬?注意-双子座一族の薙刀士-
「陰陽師、優しい! 俺、陰陽師が大好きだ!」
今思えば、彼は式神となった最初からこんな風だった。
自らを『双子座一族の薙刀士』…と名乗った彼らは……。
そう双子座一族は必ず双子…しかも人型と獣型の双子として生まれ、共にあるのだという(もちろん四六時中一緒というわけではないし、それぞれ自由に行動していたりもするが)。
その上、どちらも片目に眼帯をしているのだが、彼らの常識では、これを外すのはとても恥ずべきことなのだという。
話が反れたが、そんな彼らは人間のような個体名を持たなかった。
様々に存在する式神達の中には、人間同様に名前を有するものもいるが、彼らはそうではないらしい。
かといって、『双子座一族の薙刀士』…なんて。呼びにくいことこの上ない。
彼らを式神に迎えてすぐ、○○はそれぞれの名前を思案する事態に見舞われた。
とはいえ、上手い名前が思いつかない。
ならば自分好みの名前の方が良いだろうと、当人達の意見を訊いてもみたのだが。
「陰陽師がくれるものなら、俺、何でも嬉しい!」
「きゅいっ!」
なんていう満面の笑みな人型な彼と、これまた肯定を示すように尻尾を振りまくるかわいらしい獣型の鳴き声が返ってくるばかりで。
結果、我ながら安直だとは思ったが、薙刀士だから『ナギ』…という名前がまず浮かんだものの……。
でも、相手は双子だ。
二つ考えねばならない。
そんなわけで、まずは人型の彼を『ナギ』。
そして、獣型には……。
さて、どうしたものか。
「うーん……」
唸る○○に、他の式神達という外野の声が飛んだ。
曰く、
「じゃ、逆さまにしちゃえばー?」
かるーい口調で、これまた何とも安直な、とも思ったが。
「ナギの逆さま……ギナってこと?」
考えるように、○○はそれを口にしてみる、と、またも別の、今度は複数の外野が騒いだ。
「ギナって、何か呼びにくい」
「ですね」
「だよねー」
「じゃ、キナってのは?」
「あ、それなら良いんじゃない?」
などなどなど、仲間達によって進む命名により、そして本人(本獣?)もどうやら同意を示してくれた(嬉しそうに一鳴きしてくれた)ので。
結果、人型はナギ。
そして獣型はキナ…という運びになった。