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陰陽の道≒式神との道

第8章 始まりは不本意な-羅刹鬼-


ちろ、と隣…というよりは、やや後方を見やれば、そこにはさして珍しくもない、何処にでもいるだろう小娘が一人。
にも関わらず、何の因果か、今の己はこの小娘の式の一人だ。

誰がこんな小娘の式神風情になど…と、当然強かに拒んで対峙したものの、不本意極まりないが結果はこの様である。
つまるところ、己は敗北したのだと、羅刹鬼は消えぬ苦々しさに眉間を寄せた。

その小娘の名は、○○。
陰陽師…には違いないが、まだ未熟の域を出ぬ小娘に敗れるなど……。

とはいえ、彼女は陰陽師である。
自ら得物を振るって戦うことは、ほとんどないと言って良い。
陰陽師とは己の式神を用いる存在だ。

よって、羅刹鬼は○○が懸命に総動員した式神達に敗れたわけだが、いずれにしても気に入らないのは変わらなかった。

羅刹鬼にしてみれば十波羅蜜にしてやられる以上の失態であり、屈辱であり……。

(この恨み……)

その心境たるや、正に『いずれ晴らさずにおくものか』…なはずなのだが。

どんっ!

「ぃだっ!」

先刻より歩を進める森の中、ふと羅刹鬼が立ち止った背中に顔面からぶつかってきたのは誰あらん、小娘…○○だ。

羅刹鬼の背中にぶつかったらしい○○は鼻先をさすりながら、自分を振り返る…というより、呆れ顔でねめつけている羅刹鬼を見上げた。

長身の羅刹鬼の面を見るためには、小柄な少女は思いきり上を振り仰ぐようにするしかない。
いつもそうしているように○○は羅刹鬼を見上げ、しかし不平を鳴らさないのは……。

「この先…だね」

羅刹鬼を見上げていた少女の眼差しが、二人の向かう先へと据えられる。
そんな少女の表情と気配から伝わるのは闘いに臨む凛とした精神と、そして同時に、強大な相手を前にする恐怖だ。

心のうちに宿る相反するそれが恐怖に負けた時、この娘は屈し、あるいは毀れるだろう。
だが、それならば、それも良い。

放っておいてもいずれ自ら毀れるかもしれぬ、凡庸な小娘。
敗れた意趣返しも良いが、放置も良いかもしれぬ。
式になったゆえに、召喚され、協力を促されれば拒むわけにはいかぬ目下ではあるが……。

「行こう、羅刹鬼さん」
「良いだろう」

いつの間にか先へと歩き出した○○に、羅刹鬼は頷いた。
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