第11章 魔法の夜に-紅茶屋のお兄さん-
す、と引かれた椅子に、これまた慣れない動作で腰を下ろせば、湯気の立ち上る紅茶が一杯。
けれど目の前で微笑む彼のせいで、まるで味が分からない…なんて知られるのは何だか悔しいから、それは○○だけの秘密だ。
そして…本当は南瓜祭よりも前から、時々店の前を通る○○を見知っていた、というのもまた、今のところ彼だけの秘密…である。
「本当は、可愛い陰陽師さんということも、存じ上げているのですが…ね?」
でもこれも、まだ内緒…らしい。
いずれ、もっと近づけたら。
そうしたら……。
(いえ…そうではありませんね)
もっと彼女を知りたい。
彼女に近づきたい。
そして、自分のことも知って欲しい。
それは、今はまだ…彼だけの望みだけれど。
「また、会っていただけますか?二人で……」
そっと耳打ちする彼に、頬を染めて頷く少女を見る限り、その日は思いのほか近い…かも、しれない。
-終-