第11章 魔法の夜に-紅茶屋のお兄さん-
天魔、怨霊、妖怪などなど……。
上(陰陽省)からの指令があれば、いやいや、指令がなくても偶然遭遇してしまったり、依頼を受ければ何処へでも…というお手軽さはないにしろ、○○は日々頑張る陰陽師だ。
いわゆる年頃の女の子…でもあるにはあるが、お洒落なんてしてられない。
動きやすく、走りやすく、そして戦いやすく。
これが自分の出で立ちを決める、○○の最重要事項。
だけど…南瓜祭と呼ばれる、こんな日くらいは……。
○○だけでなく、他の陰陽師達も、街の人々に入り混じって様々な仮装に身を包む。
この時だけは、誰が誰かも分からない不思議な一夜が、幕を開ける……。
幻想的な飾りに彩られた街並みの中、慣れない足取りの黒猫こと○○が、きょろきょろと辺りを見回しては、いつもと違う景色に嬉しそうに目を細めた。
「うわぁ、すごいなぁ」
今夜ばかりは、ちゅん太もお留守番。
式神のお供もなし。
だから絶対、ずえったいに気を付けるように、とか、知らない人についてっちゃ駄目だよ、とか。
とにかく、しつこくしつこく、しつっこーく、言いながら見送っていたのは、ちゅん太…だけじゃない、両手じゃ足りない式神達。
心配してくれるのは嬉しいけれど。
それって、と○○は思う。
「私一人じゃ、そんなに危なっかしいってこと?」
何だか、それって納得いかない。
それに、と○○は頬を膨らませた。
「だったら、もっと地味な格好にしてくれたら良かったのに」
そもそも、○○はもっと地味な、黒ずくめの魔女姿で出かけるつもりだったのだ(もちろんスカートは長いし、大きな帽子で顔も隠せるという代物だ)。
それをいきなり、
「駄目、ぜんっぜんダーメー!!!」
そう言うが早いか、あれよあれよという間に○○を黒猫に仕立てたのは、悪魔の寵児三人衆の一人。
具羅摩は、それはもう嬉しそうに、あれこれ弄り倒してくれた。
それでも化粧や飾りが派手になりすぎるのはだけは勘弁と、何処までも派手さに拘る具羅摩との必死の攻防の末、何とか妥協点に行き着いたものの(それでも○○的には十分派手な気がしてならないのだが)、黒い猫耳と尻尾はどうにもならず…まあ、猫だけに。
そうして完成した黒猫…もとい、○○は、南瓜祭の街に繰り出し…今に至る。