第9章 狂犬?注意-双子座一族の薙刀士-
もう…二度と触れられないかもしれない。
○○は…ますます自分を遠ざけるかもしれないし、あるいは……。
「捨てられちゃう…かな……」
こんな式神なんていらないと、投げ出されてしまうかもしれない。
初めての体験……更には激しすぎる衝撃ゆえに、糸が切れるように意識を失った○○の髪を撫でながら、ナギは切なく呟いていた。
「好きだよ…○○。本当に、何よりも……」
いつも『大好きだよ』と言っては、じゃれついていたから。
きっと○○は、そこに込めた本当の気持ちなんて知らなかったろうけど。
「陰陽師だからじゃない。式神の主人だからなんかじゃないよ」
○○だから…好きになった。
思ったことをぽんぽんと口にして、表情が豊かで。
『もう、噛んじゃ駄目って言ってるでしょ!』
そうやって叱られるのさえ、嬉しかった。
だけど、式神が増えるほどに、○○は遠くなって。
近づこうとしても、何故か遠ざけられて。
それとなく…少しずつ、少しずつ、でも確かに、距離を置かれていた。
「俺が、気がつかないと思った?」
そんなの、ありえないのに。
自分はいつも、○○だけを想っているから……。
それなのに…○○は……。
(もう、俺はいらない?)
(俺のことなんか、どうでも良い?)
(俺は、こんなに○○が好きなのに……)
考えて、思いつめて…強引に手に入れた。
自分が好きだからといって、相手もそうとは限らない。
そんなのは当たり前だし、こんな風にしていい理由にもならない。
こんなことをした自分を、○○は許さないかもしれない。
それだけのことをした自覚が、ナギにはあった。