第1章 今宵見る桃色に
私はずっと戦時中一人闇にうずくまっていた
何も希望も見えない
暗くて暗くて今にも心が折れそう
だけど夢を見たの
それはあなたが側で笑う綺麗な夢
-今宵見る桃色に-
戦火があがる
爆撃音が鳴り響く
一つの国は竹槍を持ち
もう片方の国は爆弾や鉄砲を用いている
しかし私たちは外国がそのような恐ろしいものを使っているとは思わずに、ただただ一本の槍を手に訓練に励んできた
いくら抵抗しても結果が分かっていると知りながら、それでも戦うのか
こんなに差がある戦争に勝ち目はあるのかと内心ではそう思わずにはいられなかった
まさか、まさかこんなに酷い状況になるとは誰も考えなかった筈だ
私だって、こんなに悲惨な光景を目の前にしたことはなかった
「菊さん…」
ポツリと名を呟く最愛の人
その人にも赤紙が来て兵として戦争に参加しなければならなくなったのだ
お国のために、という言葉は彼ら兵士には最も忠実には従わなければならないものだがそんなもの家族であればどうでもよくなる
お国のため。そんなものはと言えてしまうくらいどうでもいい
帰って来てほしいと願うのはただ一つ
ただ一人…
「き…く、さん……」
もう一度、その人の名を呟いた
何もかもがなくなっていく中、考えられるのは戦禍にいるあなたのことだけだった
家も金も子どももいなくなってしまった
涙で視界が霞む
涙で現実に見えるものが全て嘘のように白く見える
これが全て嘘で、誰かが作ったお伽話の世界だとしたらなんて残酷な世界にいたんだろうと笑えるのに
「でも、とりあえず探さなきゃ……」
私はなんとか力を振り絞って
震える足を必死に動かす
不思議だった
いくら火花が飛んできても物の破片が飛んできても私には一つも当たらなかったのだ
まるで誰かが私をいつでも守ってくれているように
「ときちゃん…?私を守ってくれるのは…」
それは夫との間に授かった子
だけど、私が家を出ている間にそこは襲撃にあって跡形もなく消えてしまった
何度も何度も家の崩れた破片をどけてみたけれど一向にそれらしい姿は見えなかった
ふと後ろを見るとときが着ていた服だけが見えた
「えっ…とき…」
とき…とき……とき…
その時、分かってしまった
きっとこの子はお国のために命を落としたんだと