第1章 起
ほぼクラスの子全員が机の上にコンパスを出し終わったとき
ランドセルからゴソゴソ探す音も静かになり、私の探す音だ
けが教室に響いている。
いくら探してもあるわけがない。
クラス全員の目が自分に集中している。そして担任も鬼のよ
うな形相で自分を見ている。
とうとうもうこれ以上時間稼ぎはできないと思ったとき
隣の席の男子が「先生~保立がまた忘れました~」と大声で
言った。私は担任の顔を見上げることはできず
まだ探している。
いや、探しているふりをしている。
あたかも昨夜、確かにランドセルに入れたのに、と言わんば
かりの探し方だ。自分でも笑ってしまう。