第1章 起
学芸会では、主役級の何人か以外は、ほとんどの子がリンゴの木の役になった。
私もそうだ。
リンゴ役は手のひらくらいの大きさのリンゴを持って舞台に立つのでリンゴを二つ工作で作る。
私も二つ作った。
学芸会に自分の親は来なくても他の親が見に来るので、せめてこの時だけは、と気合を入れ、皆と同じようにリンゴを作った。
学芸発表会の当日、リンゴをそれぞれの手に持って舞台に出る準備に入るとき、私のリンゴがなくなっていた。
いくら探してもリンゴはない。
他の皆はリンゴを二つ両手に持っている。
担任に言ってももう時間がないからそのままで出ろとしか
言わない。
もうリンゴ役が出る時間だ。他のリンゴ役と一緒に舞台に出る。
リンゴの木らしく耳の横あたりに工作で作ったリンゴをそれぞれ持つ。
可愛らしいリンゴの木だ。
私はリンゴのない木だ。
ただ一人だけ手を耳の横につけて立っているだけだ。
ああ、せめてリンゴじゃない、もっと目立たない色の
果物だったら自分がリンゴを持っていないことも遠くからでは
分からなかっただろうにな・・・なんて、また的外れなことを考えていた。