第1章 起
いや、正確には、自分の机の上全部に墨汁が巻き散らかされており
その状態が目に飛び込んできて真っ黒に映ったのだ。
辛うじて椅子にはあまりかかっていない。
「あ、椅子は大丈夫だ」なんて変に冷静に心の中で
つぶやく。
小学校3年生の時だ。それでも椅子に座ったが机がこんな状態では
次の動作ができない。
少しでも動くと墨汁が洋服やランドセルにつくのだ。
クラス全員の視線と今度はヒソヒソではなく、さすがに皆も
動揺していたのであろう、いつもより声が大きめになって
「誰がやったの」「私じゃないよ」「きったね~」という話
し声が聞こえてくる。
いつ担任が来たのか知らないが、なぜか自分が雑巾で墨汁を
きれいにふくように言われた。教室に干してある何枚かの雑巾で
墨汁を吸い取る。あっという間に雑巾が真っ黒に染まる。
それでも滴るように机の墨汁はたっぷりかけられてある。
真っ黒に染まった雑巾を手洗い場で洗い、また自分の机を
ふく。何回も繰り返し拭いてみるが墨汁はしっかり木の机に
染み込んで机の色は黒い色となってしまった。