第3章 バンドコンテスト
「抱き締め…るだけ?」
「そうだよ!早く!」
演劇部の女子が力の籠った言葉を俺に発しる。
「氷童さんを一人にしちゃダメだよ!絶対、黄瀬君が側にいなくちゃダメなんだよ!」
「ありがとうっス」
その言葉で目が覚めたような感じだ。勢いよく走り出した。まだ、遠くには行ってないと思う。
(椿っち…)
《椿side》
「ハア…ハア…ハア…」
学校から全力で家の近くの公園まで走って来ていた。喉がからからで吐き気が襲ってくる。近くの自動販売機からサイダーを購入。キャップを開け、中の炭酸飲料を一気に飲み干す。
「プハッ…はあ…疲れた」
立ち尽くしてしばらくしてから寒くなり、自分の両腕を世話なく擦る。寒い…
ガバッ
「だ…誰だ!」
「椿っち!!」
「黄瀬っ!?離れろ!」
後から追いかけてきたのだろう、耳元で暖かい吐息がかかる。ギュッと後ろから抱き締められて簡単には振りほどけない。
「椿っち…俺は…本当に椿っちの事…愛してるんスよ…」
「…口ではどうとでも…言える…」
何故か上手く反論出来ない。どうしてだ…なんでこんなにも…胸が苦しいんだ…
「…椿っちって意外に嫉妬深いんスね?」
「五月蝿い…ただ…裏切れるのが…怖いんだ…」
「大丈夫っスよ…俺はいつでも椿っちの側にいるっスから…」
あぁ…ダメだ…絶対に惚れないと決めたのに…
(いつの間にか…貴方が好きになっていた…)
これだけ愛を囁かれた事がなくて、これもただ、上部だけのものかと思っていた。だけど…
「信じて…いいんだな…?お前の事…」
「信じて欲しいから今までずっと側にいたんじゃないっスか」
「そうか…」