第3章 バンドコンテスト
《黄瀬side》
俺に背を向けてこっちを向いてくれそうにない椿っちに演劇部の女子が許しをこうように一つ一つ言葉を選ぶように喋った。
「違うの!あれはね…私が手伝って欲しいって言ったの!ごめんなさい…付き合ってるとは…」
「…いや、あんたは悪くない…」
「え…?」
椿っちはゆっくりとこちらを振り向いた。泣いたのか目が腫れぼったく、赤くなっていた。…なんで俺がいない所でいつも泣くんスか…?抱き締めてあげたくて…でも、彼女はそれを拒む。どうしてなんスか?こんなにも椿っちの事が…好きなのに…
「…なんで…違う女子を抱こうとしたんだ?…」
「それは…練習に付き合って欲しいって言われたから…」
「俺は…そんな程度の女だったのか…」
「椿っちは…俺にとって…大事な人っスよ!」
「口ではどうとでも言える…」
椿っちは何故か薄く笑っていた。何かを諦めたような…なにか…彼女が…離れて行ってしまう…
「俺は椿っちが大好きっスよ!一番!」
「その言葉が一番、嫌いだ…!」
椿っちはその言葉を残して走って行ってしまった。引き留めに行かなくては…だが、引き留めても…なんて言葉を掛ければ…
「黄瀬君!追いかけなくちゃ!」
「でも…なんて言葉を掛けていいか…」
「言葉じゃないよ!ただ、抱き締めるだけでいいんだよ!」