第3章 バンドコンテスト
「椿っち?」
黄瀬だった。声音からして少し心配そうな声だ。
「どうしたんスか?具合悪いんスか?」
俺の肩をそっと掴む、黄瀬の大きい手…嫌だ…触るな…
「…触るな…」
「え?どうしたんスか?本当に」
「俺に触るなって言ってんだ…」
顔を上げて黄瀬をキッと睨む。黄瀬は少し悲しい顔をした後、抱き締めようと手を広げてきた。
「遅くなったから怒ってるんスね?謝るっスよ」
違う…そんな事を怒ってるんじゃない…なんで…
抱き締められる前に立ち上がり、体育館から離れていく。黄瀬は全くわからないとでも言いたげに問いかけてくる。
「なんで怒ってるんスか?」
「俺に触るな…気安く話掛けんな…」
「なんでそんな事、言うんスか?」
「なんで?…お前みたいな裏切りものだからだ」
「?俺がいつそんな事したんスか?」
俺は黄瀬の方には向かず、怒りを露にして喋る。
「自覚してないんだな…!」
「どうしたの?黄瀬君…」
そこにさっき、体育館にいた少女がやってきた。声からしてそうだと察した。
「いや…椿っちが…」
「氷童さん?…もしかして!?氷童さん…さっきの見てたの?」
「……」
流石に女子は察しがいい。俺は肯定も否定もせず、ただ立ち尽くした。
「椿っち!あれは違うんスよ!あれは…」
「何が違うんだ?」
黄瀬の言葉を遮り、それ以上聞きたくないと言った感じで首を振る。