第10章 動く理由
目を覚ましたのは、空がオレンジ色に染まっている頃
私は急いで、道場へと戻る
恵さんのことをみんなに知らせないと
しかし、それは手遅れだったらしく
緋村さんたちは、恵さんが置いていった手紙を読んでいて
事態を既に把握していた
「左之、観柳邸の場所はわかるな!行くぞ!」
「行けよ」
恵さんを助けに行かなくてはいけない場面で、佐之助さんはそう言った
私は、彼の次の言葉に耳を疑ってしまった
「あの阿片女のために、何で俺が動かなきゃなんねーんだよ」
がっかりしてしまった
いつも佐之助さんは余計なことを言って薫さんを怒らせたりするけど、
頼れる人だって思ってたし、誰かのために力になる人だって、そう思っていたのに
そんな彼に私は憧れていたのに
今の佐之助さんは
『……最低』
気が付いたら、言葉として出ていた
佐之助さんに睨まれるが、怖くない
今の佐之助さんは、駄々をこねる子供と同じだ
「いい加減にしろ、左之。お前らしくもない」
ドスの利いた低い声
緋村さんの顔は、怒りに満ちていた
初めて見るその迫力に、私は鳥肌が立った
「…るせぇよ。あの女の作った阿片で俺の仲間(ダチ)は死んだんだぜ。それなのに何処に俺が動かなきゃなんねー理由(ワケ)があるんだ。
俺は、お前程お人好しでも、まして流浪人でもねェーんだよ!!」
にらみ合う二人
依然として動こうとしない佐之助さんに、緋村さんは言った
いつも気丈にふるまっている恵さんだけど、時折、寂しそうに私たちを見ている
心を許せる家族に等しい仲間を探している瞳だ、と
「人が動くにいちいち理由(ワケ)が必要ならば、拙者の理由(ワケ)は、それで十分でござる」
その言葉に、佐之助さんの目の色が変わった
不貞腐れた子供のような目ではなく
いつもの頼りがいのある、彼らしい目へと