第9章 剣心組vs御庭番衆
「故郷の会津には、帰りを待つ人はおらぬでござるか?」
「!?」
「生まれ育った所の言葉の訛りは蓮っ葉な言葉使いにしsても、到底消せるものではござらん。拙者は幕末(むかし)京都で幾度も会津志士と闘ったことがある故、ピンと来たでござるよ」
恵さんは諦めたかのように、自分の過去の話をし始めた
“高荷”とは会津の医者の中ではとても有名な一族で、女・子供にも医学を学ばせる珍しい一家だったらしい
しかし、会津戦争で恵さんは家族を失った
そこからは独りぼっちの生活を送ってきた
医学を学んでいた恵さんは、五年前上京し、ある医者の助手として働いていた
しかし、その医者は裏で観柳と組んでいたとのこと
その医者は通称“蜘蛛の巣”という新型のアヘンを作り上げた
従来の原料を1/2にして、2倍の依存性を持つそれを大量販売をもくろむ観柳は、その精製法を聞き出そうとした
しかし、医者は利益を独占しようとし、作り方を教えなかった
その結果、観柳の手により殺害された
そして助手として精製に携わっていた恵さんが作る羽目になったらしい
「……自分が作っていたのが人を救う薬じゃなくて、その逆だと聞かされた時は死のうかと思った。けど、死に切れなかった」
私は見つけてしまった
彼女の手首に私と同じ自傷の傷があることに
「生きて……医学にたずさわっていれば、いつかどこかで、離れ離れになった母や兄に再会できるかもしれない。そう思って…人を死に追いやる薬を三年間も…」
大粒の涙が恵さんの頬を濡らす
その涙は、人の死を悲しみ、自分の行いを悔やむ涙
この人は、人の命の重さをちゃんとわかっている人
「“蜘蛛の巣”の生産を最小に抑えて、せめて犠牲者を最小にしようと、その罪悪を放り出さず敢えて自分ひとりで背負い込んでいたのでござろう。そうして三年間も苦しみ続けたのなら、そろそろ許されて自由になってもいい頃でござるな」
緋村さんは、にこりと笑う
涙を流し続ける恵さんに、ハンカチを手渡した