第12章 The Great Humbug(東峰旭)
「これ、間接キス……になっちゃうけど」
「構いません」なまえは恭しく答えた。「私は寛大なのです」
ストローの先と、彼女の顔を交互に眺めた。
それから、なまえから野菜ジュースを受け取ろうとしてまた、あ、と思った。
彼女は両手で包み込むようにして持っているから、どうやっても、彼女に手が触れてしまう。
いや、ここまで気にするのは流石に男らしくないか。むしろ女々しいな。
そう考えてなまえの手の上から自分の両手を重ねた。最初僅かに触れたとき、また静電気のような弱い衝撃が走って、指がピクリと動いた。けれど、そのままゆっくりと彼女の手を握った。ひんやりとした温度が伝わる。
そのまま紙パックを受け取ろうとしたけれど、なまえの手は離れない。
「……?」
旭はなまえの目を見た。なまえも見つめ返した。
少しの抵抗のあと、彼女は手を離す気がないのだと気付いて赤面した。
これじゃあ、俗に言う ”あーん” みたいなものじゃないか?
そう考えながら、とうとう手を重ねたままストローを口に含んだ。自分よりも身長の低いなまえに合わせるために、少しだけ屈まなければならなかった。
間近で見られるのは、案外恥ずかしい。
重なった指先から、熱となって彼女に伝わってしまいそうだ。
なまえはほとんど飲んでいなかったのだろう。啜ると少し温くなった野菜の甘みが広がった。