第12章 The Great Humbug(東峰旭)
「あとは自信を持てばいいだけ」
旭はなまえの言葉を繰り返した。「勇気ならすでに持っている」
すごくしっくりくる言葉だった。なまえの言うことは、どうしてかいつも自然に身体の中に入ってくる。
「勇敢なのは大切なものを守るときだけでいいのよ。バレーのスパイクを打つときの旭、とってもかっこいいじゃない」
「でも、毎回ドキドキしてるんだ」旭はなまえの目を真っ直ぐに見つめた。「ブロックにつかまった時なんか、心臓が握りつぶされる気分になる」
「そんなの、みんな一緒よ」
「そこは雑にまとめるのかよ」
「バレーのことはわからないもの」
なまえは立ち上がって時計を見た。旭も釣られて時計を見る。もうそろそろ部活にいかなきゃいけない時間だ。
「ありがとう、なまえ」
旭はそう言って立ち上がった。結局勉強ははかどらなかったが、その代わり良い言葉をもらえた。
「よし、じゃあ最後にあなたに良いものを授けましょう」
なまえは机に乗せていた野菜ジュースを両手で捧げ持って、母のように穏やかな口調で言った。「お飲み」
「……これは?」
目の前に突きつけられた、『緑の野菜』と書かれたパッケージをまじまじと見る。
「魔法の薬です」なまえはきっぱりと言った。「あなたの中に入ると、勇気となって身体中に染み渡ります」
旭は意味がわからなかった。黙っていたら、彼女が「英語のほうがいいかしら?」と聞いてきたので、これは小説の1シーンか何かなのだろうか、と思った。
「吹き替えでお願いします」
「よろしい。ではどうぞ、お飲みになって」
ストローが口元へ運ばれる。あ、と思った。
なまえがさっきまで飲んでたストロー。
こういうことをいちいち気にしているから、ヘタレと言われてしまうのだろうか。
でも、なまえが嫌だったら、俺も嫌だしな……一応、確認したほうがいいかな。
「あの、」
「何でしょう」