第12章 The Great Humbug(東峰旭)
「旭、もし私が酷いこと言ってるとしたら謝るわ。ごめんなさい」
「ちが、そうじゃなくて」
今のは違う。そう言いたかった。手を繋ぐのが嫌とかじゃなくて、ただ驚いただけなんだ。
そう言いたかった。
「旭は優しいんだよ。本当に勇気のない人は強がりや虚勢を張るけれど、あなたはそんなことしないじゃない。大きな身体で、誰よりも優しい人でしょう」
「……それを、 あいつらの前でも言ってほしかったな」
あぁ、最低だ俺って。
これじゃあまるで体裁だけ気にしてる奴みたいじゃないか。
なんで好きな子のこと悲しませてるんだろう。
「あさひ、」
「ごめん。俺って、格好悪いな」
「ねぇ旭、」
「気弱で、ヘタレで、臆病で、意気地なしで……」
「ねぇってば」
「いいところなんて1つもない。」
「You have plenty of courage, I am sure.」
「は?」
突然、流暢な英語が飛び出してきたのでまた間の抜けた声を出してしまった。
なまえは気にせず続ける。
「All you need is confidence in yourself. 」
「……お、おう」
あまりの発音の良さに思わず笑ってしまった。
「笑わないでよ」
なまえも照れたように口元を緩めて言い返した。「恥ずかしいじゃない」
「ごめん」
「これ、この本に出てくる中で一番好きな言葉なの」
なまえは文庫本を手にとって言った。いつもの穏やかな表情に戻っている。
「なんていう意味なんだ?」
「あら、私の発音、良くなかった?」
「逆だよ」旭は肩をすくめた。「リスニングは得意じゃないから」
なまえはくすくすと笑って、「この本に出てくるライオンはね、」と話し始めた。
「臆病で、ずっと自分には勇気がないって思ってたの。でもね、ドロシーが魔女に捕まったとき、危険を顧みずに立ち向かったのよ。
そしてオズの王様が彼に言うの。
『キミは勇気ならすでに十分持っているよ、まちがいなくね。あとは自信を持てばいいだけなのさ』って」