第12章 The Great Humbug(東峰旭)
なまえが鞄から文庫本を取り出した。昼に見た時は目がいかなかったが、タイトルに『Wizard of Oz』と書かれている。
「英語の本なのか、それ」
「洋書って言いなよ」
彼女がぺらぺらとめくると、英文がぎっしりと敷き詰められていた。「優しい英語で書かれてるから、私にも読めるかなーと思ってさ」
「すごいな。俺なんて、日本語の本すら集中してらんないのに」
旭はまた表紙を一瞥した。イラストのライオンが目に入る。
勇気のないライオンか、と心の中で呟いた。
大学に進学して、留学する。そして将来は海外で働く。
中学の頃からその夢を掲げているなまえは、いつもキラキラしている。
俺とは大違いだ。
付き合うとか、付き合わないとか、それ以前に生きてる次元が違うのだ。
最近は考えている。
もしかしたら、こうやって2人きりでいるところを他の生徒に見られ、あらぬ勘違いをされてしまうことはなまえにとって迷惑なことではないのか、と。
「なぁ、なまえ」思い切って聞いてみた。「なまえは、俺と一緒にいて恥ずかしくないのか?」
「そんなわけないじゃない」
なまえは驚いて目を丸くした。「どうしてそんなこと聞くの?」
「えぇと、」言葉に迷って、机の上の自分の手を見つめた。「俺の見た目がこんな厳ついのに、ヘタレで、情けないから……?」
少しだけ、空気が振動しなくなった。
「あさひ、」
なまえが悲しそうな声を出した。「旭、あんた何か勘違いしてない?」
その声が、胸の奥を締め付ける。
返事ができずに俯いていると、なまえが机の前まで来た。顔を上げると、机に肘を乗せた彼女と目があった。
「確かに私、オズの魔法使いに出てくるライオンに似てるって言ったけど、別に馬鹿にしてるわけじゃないよ」
そう言って旭の手を握ろうとした。触れ合ったところから静電気のような弱い電流が流れて、旭は思わず手を引っ込めてしまった。
彼女の顔が苦しそうに歪む。
あ、傷付けてしまった。