第10章 柘榴石の烏(菅原孝支)
その後、2人で他愛のない会話をした。
お互いの地元の観光地、テレビのチャンネルの数、冬の過ごし方、共通語だと思ってたけど、実は方言だった言葉。
やがて聞き慣れたLINEの通知音が聞こえた。それが別れの合図だってことは、なまえにもわかっていた。
「バーベキュー、終わったみたい」
彼は立ち上がって、衣服を叩いて乾いた土を落とした。「じゃあ、俺、もう行くから」
「うん、頑張ってね、バレー」
なまえも同じように立ち上がって、手を振って見送った。
呆気無く去っていく背中。夏の香りがした背中。
「あの、さ」
小さく呟いたつもりだった。それこそ蝉の声に飲み込まれてしまうほどに小さく。
けれど彼には届いたようで、中庭へと向かっていた足を止めて、こちらを振り返った。また真面目腐った顔をしている。
「私、将来自分の絵を仕事にすることが夢なんだ」
足が少し震えていた。鼻の奥がツンとする。「見つけてよ、宮城にいても。私の絵」
頑張るからさ、と最後に小さな声で付け足した。
真夏の青空の下、彼は大きな口を開けて笑顔を見せた。
「うん、約束する」
それだけ言って、彼は中庭へと駆けて行ってしまった。