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【ハイキュー!!】青春直下の恋模様【短編集】

第10章 柘榴石の烏(菅原孝支)


「絵を描くの、好きなの?」

「…昔は、好きだったよ。でも今は、正直わからない」

彼の素直な人柄のせいだろうか。偶然の出会いに投げやりになっているせいだろうか。なまえは正直に気持ちを吐露した。

「そうなの?意外だなぁ。廊下にある絵の中では一番…」
上手なのに、と言い掛けて口を噤んだのが分かった。気にしないで、と笑って応える。

「自分でも、部員の中では一番だと思ってるよ」

やっぱり夏の暑さのせいかもしれない。誰にも言えなかった気持ちがお腹の底から迫り上がってきて、口から次々にこぼれ出ていった。「だって他の子たちの絵は比べようもなく下手なんだもん。あんなのただ適当にそれっぽいモチーフを寄せ集めただけ。

中学生が、机の引き出しの中のノートに書いてるポエムと一緒。格好良い言葉を並べてるだけで、中身の無い自己陶酔の塊だよ」

「…結構、キツいこと言うんだな。」

彼がニヤリとした。私の意地の悪い部分を見て笑うなんて、貴方も大概意地が悪い。なまえはそんなことを考えて「でもね、」と付け加えた。

「私はいつか自分が見下してる子たちに越されてくの」

顔を上げて青空を見た。こんなに爽やかな空の下にいるのに、17の私はなぜこんな黒く燻っているのだろう。


「あの子達は下手だと思うよ。でも、楽しんでるんだ。絵を描くことを。完成させることを。人に見せることを。どんなにイタいと思われても、どんなに下手だと言われても。好きだから描き続けられるの。純粋な気持ちで。周りの批判なんてちっとも怖がらないのよ。そういう子たちには、私は、いつか、追い越される」

声がだんだんと小さくなって、最後は蝉の声に飲み込まれた。
私も昔はあの子達と同じだったはずなのに、いつからこうなってしまったんだろう。

部員の中には、完成した作品を何度も満足そうに眺める人がいる。
我が子を見るように目を細めて、恋人に触れるみたいに優しくキャンバスを撫でで。
にやにやしちゃって、1人でずっと見てるんだ。

自惚れ屋め、と心の中で悪態を吐くけれど、本当はちょっと羨ましく思っている自分もいる。
私は高校に入ってから、心から満足のいく作品を作ったことがないのだから。
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