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【ハイキュー!!】青春直下の恋模様【短編集】

第10章 柘榴石の烏(菅原孝支)


「ねぇ、それ見せてよ」
そう言ってなまえのスケッチブックを指さしたので、少し躊躇う。これは頭の中にあるものを吐き出すために使っているから、人に見せるものではないと思っているからだ。事実、なまえは他人には滅多に中身を見せていなかった。理由は簡単、笑われるのが嫌だから。

でも、いいや。どうせこの人とは今日限りだろうし。

夏の暑さが頭をおかしくさせているのだろう。無言で手渡した。

「やっぱ上手だなー。経験値も才能も違うもんな」
人懐っこい笑顔を浮かべて、彼はページを捲った。それに対してありがとう、と気のない返事をする。

「上手だね、って言われるの、好きじゃないのよ」

思ったことがそのまま口から出てしまってハッとする。夏の暑さは、どうやら脳と口を直結させる働きがあるらしい。

「…私よりも上手な人なんてたくさんいるから」

「向上心があるんだな」

また真っ直ぐな笑顔を返された。今度は後ろめたさを感じる。

そんなまっすぐな気持ちじゃないんだ、と口から出かけた言葉を飲み込んだ。

小さい頃から絵を描くたびに言われていた。 ”上手だね” 言われすぎて、今では何も感じない。
むしろ苛立ちすら覚える。
どこ見て言ってるんだって責めたくなる。これのどこが上手な絵なわけ?って。

描いた直後から、破り捨てたくなるんだよ。下手すぎて、自分の作品を見ることが耐えられない。廊下に飾られている絵だってそう。その前を通るときには、私はいつも下を向いているんだ。

私がこの絵を描いたという事実が、全校生徒の目に晒されていることがあまりにも耐えられなかった。耐えられなさすぎて、顧問の先生に、作品の横に取りつけるキャプションを、自分の氏名は載せないで作品名だけにしてくれと頼み込んだほどだ。


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