第10章 柘榴石の烏(菅原孝支)
「バレー部の合宿で来てるんだ。今、中庭でシメのバーベキューやってんだけど、はしゃぎすぎてすぐお腹いっぱいなっちゃったから、散歩してた」
そう言ってなまえの隣に座り込んだので、男慣れしていないなまえは身体を硬くした。僅かに炭と汗の混じった匂いがした。夏の香りだ。
「ここは涼しいなー。体育館はさ、もっとむわっとしてて、息をするのも苦しいくらい」
初対面なのに、彼はずいぶんと饒舌だ。良く言えばフレンドリーで、悪く言えば馴れ馴れしい。
「キミは美術部なの?」
「え?う、うん」
「すごいな。俺、絵は昔っからどうもダメでさ」
同じ高さの目線で笑った。細くなった目元に、泣きぼくろが1つ。
真っ直ぐに笑う人だな、となまえは思った。
夏の風が髪の間を通り抜ける。沈黙に居心地の悪さを感じて、青空に浮かぶ雲の中に言葉を探した。結局、口から出たのは「今日、暑いね」という面白みのない台詞だった。
「だからー」
「…?」
「あ、そ、そうだよね」
慌てて言い直す彼を見て、なまえはピンと来た。
「あなた、東京や埼玉の人じゃないの?」
「うん、宮城。やっぱわかる?恥ずかしいな」
そう言って彼は照れたように頭を掻いた。言われてみれば、イントネーションも微妙に違う。
「恥ずかしくなんてないよ、素敵じゃん。方言」
「ありがと」
どちらかと言えば人見知りななまえだったが、東北からやってきたこの人とは、抵抗なく話すことができるようだ。