第1章 12時48分(西谷夕)
西谷の言葉になまえは沈黙する。
あれ、この人、さっき私のファンって言ってなかったかな。
「あのー、西谷くんって、もしかして他にもいいなって思う人とかいるの?」
なまえの質問に西谷は少し真面目な顔をして、うーんと唸った。
「...女子バレー部のあや先輩とか、かな」
やっぱり...
「あー、てことは、西谷くん、」
なまえは咳払いを一つして、椅子に座り直した。
「西谷くんは、気になる女子がいたら片っ端から声をかける人っていう認識で良いのかな?」
なんか、ちょっと浮かれてた自分が恥ずかいな。
しかし西谷はいやいやいや、と否定した。
「俺が昼飯を誘った女子はなまえさんが初めてですよ」
「...それはこれから他の女子たちも誘っていくっていう意味?」
「違いますって!なまえさんは特別です。」
「特別、ねぇ...」
「なんと言うか、上手くいえないんスけど」
西谷は相変わらずまっすぐな瞳でなまえを見つめている。
「潔子さんたちはきれいで、憧れでもあるんすけど、なまえさんはかわいくて、もっと仲良くなりたいっていうか、たくさんお話ししたいっていうか」
「...」
何が違うんじゃい、となまえは頬杖をつき、煮え切らない態度の西谷と、その向こうの壁に掛かっている時計を見比べた。昼休みももうすぐ終わる。解放されるまであと少しだ。
「昨日からずっとなまえさんのこと目で追っちゃうし、授業中もなまえさんのこと考えちゃうし、こうやって話しててすげー楽しいし、なんていうかその...好き...?」
「...え?」
「俺、なまえさんのこと、好き...?です。」
西谷は自分で言って自分で驚いていた。今一番しっくりくる言葉を見つけて、ストン、となにかが落ちたような気がした。
「俺、なまえさんのこと好きっす!」
「え、待って、早いよ!」
なまえの制止も聞かずに椅子から勢いよく立ち上がった西谷は両手を広げて笑った。
「俺と付き合ってください!!!」
なまえは唖然とした。再び彼に教室中の視線が集まった。けれど西谷は気にもとめないみたいだ。
なまえは顔が熱くなるのが自分でもわかった。こんな堂々と人前で告白されるなんて思ってなかった。